四国7日目となる10月23日、いつものように6時前には目が覚めました。
一週間もキャンプを続けていると、
それが日常になってきて、たいていのことは
「いつものように」過ぎていくものですが、
今おかれた状況は、なかなか非日常的です。

昨夕に不注意で折ってしまったディレーラーハンガー。
痛恨極まりない状況です。
とりあえず、ディレーラーにベルクロを巻き、
カセットやチェーンに当たらない位置に吊ってます。
カップ麺などいただきながら、
今後の対応をシミュレーションします。
折れたディレーラーハンガーを
直すのはまず不可能でしょう。
アルミの溶接などできるところは限られるでしょうし、
かなり力が加わるところなので、
接着など論外。
ディレーラーを外し、チェーンを切って
シングルスピードにする……という対処もあります。
たとえば山の中でディレーラーハンガーを折ってしまい、
下界へ脱出するために自転車に乗る必要があるなら、
それもありでしょう。
しかし、シングルスピードで旅を続ける根性は
自分にはありません。
そもそも、チェーン切りすら持ってない(汗)。
経験上、出先でチェーン切りを使う機会は
10年に一度あるかないかなので、
林道やトレイルメインのツーリングでない限り、
チェーン切りは携行しないのです。
やはり、何らかの方法で
ディレーラーハンガーを入手するしかありません。
それさえあれば、アーレンキーで簡単に交換でき、
もと通りになります。
フレームの仕様上、
汎用のディレーラーハンガーは使えないので、
純正品が必要です。
当然ながら、ショップへ買いに行く、という行動が
真っ先に思い浮かびました。
四国にもジェイミスの取扱店はあるようなので、
どこかが純正予備のディレーラーハンガーを
持っているかもしれません。
かなり確率は低そうですが、当たってみる価値はあるでしょう。
ここでネックなのが、自分の居場所です。
室戸は鉄道網と隔絶された地域です。
バスで甲浦に出て徳島へ向かうか、
奈半利に出て高知へ向かうか……。
いずれにしろ、ショップの開店時間に電話して
ディレーラーハンガーの有無を確認しないことには
はじまりません。
いったん東京に帰る、という選択肢も頭をよぎりました。
しかし、陸路にせよ空路にせよ、往復に膨大な
費用がかかります。
いったん帰宅してしまえば、仕事やらなにやらで
再び出かけられるかも微妙です。
となれば、自分が動くのではなく、
ディレーラーハンガーをこちらへ送ってもらう、
という方法に考えが至りました。
こうしたこともあろうかと、自宅には
予備チューブなど基本的なアイテムやクリーナー、
予備の釣り道具、パソコン、着替え、
もろもろのキャンプ道具などを詰めた
箱を用意してあります。
期間が長い旅の場合、なにかあれば宿をとり、
家人に頼んで発送してもらう
「補給物資」です。
しかし、うかにつにもディレーラーハンガーは
用意してませんでした。
ふと、懇意にしているショップの方を
思い出しました。さいわい携帯番号も存じ上げてます。

朝食を終え、キャンプ道具を撤収するころには
日が高く昇りました。
自分勝手な遊びの道中で人様のお手を煩わせるのは
とても申し訳なく、本来あってはならないことですが、
意を決して、ショップの方に電話。
「レネゲードC2のディレーラーハンガーですか。
ありますよ」
本当にありがたいことです。
困った時にいちばん頼りになるのは、人の情です。
思えば、以前には出先で財布を落とし、
その時に助けてくれたのも先輩サイクリストでした。
事情をお伝えし、これから室戸で宿を探し、
宿が決まったら住所をメールしますので
そこへディレーラーハンガーを送ってください、と
お願いしました。
突然の無茶振りも快諾していただき、
ようやく今後の展開が見えてきました。
東京から今日発送してもらえば、
明日の夕刻までには着きそうです。
自転車に乗れなければ移動もキャンプもしづらいので、
今日と明日、室戸に2泊することに決めました。

標高250mのキャンプ場から、室戸の街を目指します。
キャンプ場から街まで約7km。当初は自転車を押し歩くつもりでしたが、
ペダルを回すことができなくても、
またがることはできます。
つまり、下りなら乗れるのです。
漕がなくても進む、という自転車の原点を感じながら、
室戸の街へ滑り降りました。
無事に愛用の(?)ローソンに到着。先に利用したコインランドリーも目の前です。
そこに室戸の観光案内冊子が置いてあるのを知っていたので、
記載されている宿泊施設のなかで
現在地にもっとも近い「ビジネス旅館 吉松」さんに
電話して、今日と明日、泊めていただけないか伝えました。
「うーん、うちは古いから」
「古くてもいいです。寝れれば十分です」
「そうですか……素泊まりでよろしければ」
「近くにいるので、これからお邪魔していいですか」
「はい、お待ちしてます」
心の中で小さくガッツポーズ。
物事の解決に向けて、自分の期待通りに
事態が展開していくのはうれしいものです。

失礼ながら本当に古い。電話で確認してなければ、
廃業しているとしか思えない外観です。
表玄関は壊れて動かないようで、
声をかけたら裏口のようなところから
女将さんが手招いてくれました。
「自転車が壊れてしまいまして、部品を受け取るために……」と急な宿泊の理由をお伝えしたら、あらあら大変と同情していただき、素泊まり3000円とお安くしていただきました。
自転車は、かつてスナックだったような
スペースに置かせてくれました。
部屋に上がりますか、とおっしゃってくれましたが、
時刻はまだ10時前。
せっかくなので室戸を散歩してきますと伝え、
携帯リュックに釣り具などを収め、
宿を後にしました。
外に出て、さっそくショップの方に
宿の住所をメール。発送了解の返信をいただき、
ふーっと安堵のため息が漏れました。
これで明日の夕刻には、ディレーラーハンガーが届くはず。
それまで実質的に二日間も自転車に乗れないわけですが、
いまの自分には無限にヒマをつぶせる
手段があります。
釣りです(笑)。さっそくバスに乗り、昨日も訪れた行当漁港へ。
ぽっかり生まれた空白の二日間は、
室戸で釣果を上げさせるための
天の配剤かもしれません。

さすがにバスは速い。
これが僕のバス釣りデビューです(汗)。

今日の海は澄んでます。
同じ堤防でも、訪れるたびに表情が変わります。
イカのような影も見え、有視界戦闘への期待が高まります。
海が澄んでると、投げたエギにイカが寄ってくる様子が見え、
テンションが上がるのです。
ヒマなので地鶏などしながら、せっせと竿を振るいます。
今回のサイクルウェアはカジュアルなカペルミュールで揃え、
シューズは堤防歩きとキャンプの便を考慮して
フラットペダル用のシマノET3を履いているので、
自転車なしの行動でも違和感がありません。
平日の日中から堤防をうろついてること自体が
不審者感をかもしだしますが、
そんな人が大勢いるのが釣りの世界。
竿さえ持っていれば大丈夫。
この行当漁港の堤防は実に居心地がいいのですが、
やはり釣れません。
移動するか粘るか悩ましいところですが、
本質的に飽きっぽいところもあるので、
室津港に移動します。
鯨の絵と、鯨のような漁船がただずむ室津港の堤防。ここもいい感じです。
青い空と海。思いがけず手にした釣り時間に感謝しつつ、
日が傾きだす頃まで竿を振りましたが、
またもや釣果ゼロ。ゼロなんだよ……。
イカが釣れたら、旅館で台所をお借りし、
刺身と唐揚げで晩酌、なんて考えをもっておりましたが、
コンビニ飯に決定です。

国道から外れた裏道に続く室戸の商店街に
書店様がありました。
趣味の雑誌を購入し、宿に戻ります。
あらためて見ると、本当に渋い……。
通していただいたお部屋も実に味わい深いです。もう30年以上も前、
初めての泊まりがけサイクリングで甲府を訪れた際に
利用した駅前の素泊まり宿を思い出しました。
聞けば昭和30年代に開業したそうで、
おそらく大規模なリフォームなどされないまま、
今日に至っているのでしょう。
貴重な昭和遺産といった雰囲気です。
掛け軸が吊られた床の間には、VHSのデッキとブラウン管テレビ(しかも映らない)。その下に積まれた雑誌は、
ほとんどが「週刊実話」。

衣紋掛け。なにもかにも昭和。

趣味の雑誌を読みながら、
ビールを飲む至福のひと時。
電源も電波もいらない紙媒体、大好きです。
こうして、室戸3泊目の夜は更けていったのでした。
続く。