こんにちは、田村です。
縁あって、
書籍「オールロードバイク・レボリューション」
(山と渓谷社)をいただきました。
かの、ヤン・ハイネさんの著書です。
シアトル在住のヤンさんは、
超マニアックな雑誌「Bicycle Quarterly」の編集者であり、
自転車ツーリングに関する研究家。
伝説のハンドメイド自転車である
「ルネ・エルス」のブランドを継承し、
さまざまなパーツ・タイヤを
展開していることでも(一部で)有名です。
今を去ること10年前、
ヤンさんに原稿をお願いし、
「シクロツーリスト」(長らく休刊中w)の6号に
掲載させていただきました。
その記事のタイトルは
「フランスにおけるブルベとランドナーの歴史」。
日本ではほとんど知られていなかった
事象が詳解されており、
たいへんに蒙を啓かれた気がしたものです。
当時の筆者(田村)は、
ランドナーに対して「レトロなツーリング車」くらいの
印象しか持ってませんでしたが、
本来は長距離サイクリングの競技に
向けて考案された軽量車であることを知り、
感銘を受けました。
しばらく後に来日したヤンさんを
東叡社へ案内する機会にも恵まれ、
アスリートと学者があわさったような
タフな風貌に接しました。
そんなヤンさんの著書が
「オールロードバイク・レボリューション」です。
近年珍しいほど立派な上製本。
約300ページ。
価格は3500円+税。
見本誌をいただくまでもなく
買おうと思ってましたが、
趣味の本としてはかなり高価。
しかも、イラストこそ多いものの、
写真は一点もなく全モノクロ。
青いインキで刷られ、
かなりハイブローな構成。
「優れた文章に写真はいらない」という
明快なコンセプトと自信が感じられます。
(写真ばかりの拙著と好対照w)
「舗装路からグラベルへ
1台で駆け抜ける
速く快適な自転車の科学」
というサブタイトルがついてます。
最後の一行だけでもいい気がしますが、
伝えたいことがあまりある内容が
滲み出てくる感があります。
うっかりすると
「オールドバイク・レボリューション」と
空見しそうですが、
内容は現代的です。
読んでいくと、やはり面白いです。
「なるほど」と思える内容が半分、
「!」と驚くような記述が3割、
「?」と理解が及ばない理論が2割、
といった印象です。
人によっては、ぜんぶが「なるほど」でしょうし、
ぜんぶ「!?」という人もいるでしょう。
太いタイヤの自転車(MTB除く)への
愛に満ちた一冊です。
すべてヤンさんの
実体験と研究に基づく内容なので、
説得力があります。
そして「勉強になる」本でありながら、
自転車が好きなら
上質なエンターテイメントを
読んでいるような心地よさもあり、
分厚い本ですがあっという間に読み終えました。
以下、印象に残った記述を
抜粋させていただきます。
「↑」以下は自分(田村)による感想です。
快適さはパフォーマンスなのだ。(13p)
↑
「パフォーマンス/性能」とは、
ヤンさんによって「速さ」のようです。
自分は「遠くへ行けること」だと思いますが、
結果的に同じ性能に収斂されるようです。
オールロードバイクは、しばしば「グラベルバイク」として売られているが、未舗装路を走るためだけのものではない。(19p)
↑
そりゃそうですね。
だから、この本では
「オールロードバイク」という
名称を採用して汎用性を強調しているようです。
自分の中では、
オールロードバイク、グラベルバイク、ツーリングバイクは
すべて同義です。
(自転車購入の際に)32mm以下の幅のタイヤは検討しないほうがいいだろう。(19ページ)
↑
ヤンさん、断言してます。
同意ですが、経験と勇気が足りない自分には
書けない一文。
ほかの品質を損ねてまで軽量さを追求することは、たいていは、より速くより楽しめる自転車にはならない結果を招く。(65p)
↑
真理ですね。
軽さという呪縛から逃れるための
本であると思えます。
ライダーのパワーによって生じたフレームのしなりは、バネのようにエネルギーを蓄え、それが解放されるときに駆動系のパーツ群に戻される。(70p)
↑
旧知のビルダーさんは、
同じことを主張する人もいますし、
そうじゃないと否定する人もいます。
僕は後者に近い意見ですが、ヤンさんが述べる
感覚的な効果もあるとは思います。
フレームのしなりとペダリングがうまく同調しないライダーもいるため、そうしたライダーたちには、フレーム剛性はパフォーマンスに影響しない可能性もある。(81p)
↑
ヤンさん、やはり冷静かつ客観的です。
「プレーン=滑走する」(82p)
↑
こういう表現ができるのがすばらしい。
優れたサイクリストは優れた詩人の
素質もあるようです。うらやましい。
このあたりからフレームジオメトリー、
とくにトレイルに関する記述が分厚くなりますが
それに対して感想を述べられるほどの
知識が自分にはありません……。
チューブレスタイヤにすることでリム打ちパンクの危険性は低くなるが、チューブ使用の場合に比してタイヤの転がり抵抗低減につながるわけではない。(172p)
↑
実感として同意できますが、
なかなか言えないことです。
パンク修理に時間を取られても(一日に何度かパンクしても)、速いタイヤを用いたほうが、目的地に速く到達するだろう。(183p)
↑
かなりの卓見ですが、
メンタルとフィジカルの双方が強くないと
同様の体験は難しいと思いました。
我々は、パンクしやすいタイヤを
忌避する傾向が刷り込まれてます。
ハイエンドモデルのホイールを用いることによる走行性能への恩恵は、過大評価されがちだ。(190p)
↑
激しく同意。
自分の場合は、
ハイエンドモデルのホイールが買えない、
という負け惜しみもありますがw
フレームは、自転車全体の重量の小さな割合を占めるだけであり、さらにライダーの体重を加えれば、フレームの重量はたいした問題ではない。(196p)
↑
極論ですが、厳然たる事実です。
多くのライダーにとって、ダブル変速レバーは、人間工学的にとても理にかなっている。(233p)
↑
このあたりに、ヤンさんの
レトロ自転車への憧憬が
現れていると思いますが、
本書では、その方面への
記述はかなり抑制的です。
往年のエルスとか、最近のヤンさんの
愛車とかを写真で紹介するページがあっても
いいかと思いましたが、
そういう即物的な構成をしないという
編集意図なのでしょう。
そういうのは「Bicycle Quarterly」を
読めばいいですし。
自転車後部へ荷物を積載するよりも前部への積載がよりよい選択だ。(253p)
↑
ある程度以上の剛性がある
モダンな自転車なら、筆者は
後ろ積載メインでいいと思います。
より重い荷物で長距離を走るには、ローライダーパニアバッグが望ましい。(254p)
↑
斜めの枠付きキャリア
(既製品ならニットー・キャンピー)
にサイドバッグを
懸吊するスタイルを指します。
自分はかなり否定的で、
マイナス面が大きいと思ってます。
意見の違いを含めて読書です。
(バイクパッキングに言及した後に)荷物量が多い場合の砂利道や舗装路のツーリングでは、伝統的なパニアバッグ装備が推奨できるだろう。(257p)
↑
自分はバイクパッキングの有効性に
惚れているので、荷物量に関わらず
バイクパッキング式に軍配を上げます。
(見た目の好みはその人次第)
キャリアやバッグに関しての直接な言及は
3章内の8ページしかなく、
すこし物足りなく感じました。
ヤンさんは、基本的にファストラン志向
なのだと思います。
設計と装着方法が適切なフェンダーは、自転車の走行性能を目立って損なうようなことはない。(263p)
↑
そのとおりですね。
先日、本所工研を取材する機会に
恵まれました。同社では
「マッドガード」と呼称しているので、
自分も今後はそれで統一しようと思いました。
今日のダイナモ発電式ライトの機能は熟成されていて、快速走行にも最適である。(264p)
↑
そう思って、そういう一台も
作ってもらいましたが、
乗らなくなりました。ボルト優秀ですし。
シミーは、多くの変化しうる要素が互いに絡み合っているために、解決が難しい問題である。(270p)
(「シミー」とは、ハンドルバーの小刻みな激しい振動である。)
↑
自分や多くの先輩サイクリストは
4サイドバッグ装備で
フレーム全体を襲うシミー現象に
悩まされましたが、ヤンさんが言うところの
シミー現象は発生条件が異なるようです。
グラベルロードを速く走りたいライダーであれば、太いタイヤを履いたロードバイクであるオールロードバイクを欲するだろう。(278p)
↑
ここまで読み進んで、
「オールロードバイク」の定義が
はっきりしました。
やはりロードバイクベースなのです。
夢に描いた究極の自転車を具現化するなら、カスタムバイクをオーダーする以外に方法がほぼない。(289p)
↑
激しく同意。しかし、
その夢が次々と現れるのが
悩ましいところ。
ビルダーが「それは依頼主に適していない」と考える自転車作りのプランを、そのビルダーに強いてはいけない。(290p)
↑
激しく同意。しかし、
そうでないサイクリストが多いんでしょうね。
オーダーメイドは用途と色以外は
「おまかせ」が
いちばんいいと思います。
以上、ヤンさんの本の
ご紹介でした。
ぜひご一読くださいませ。